劇中世界より、40年ほど前…
板場の両親たちよりも、
少し上の世代に向けて放映していたテレビまんが(当時のアニメの呼称のひとつ)である。
キャラクタービジネスに革命を起したロボットアニメのヒットにより、
空前のアニメブームと世が沸いていた頃。
「痛快ゲバルト野球軍」の後番組として企画された「電光刑事バン」は、
時代劇の延長線上にあった従来の子供番組とは一線を画し、
当時としては珍しい、中学生以上のアニメファンに向け、
一種オトナの娯楽作品を目指した内容であった。
派手な銃撃戦よりも、
特捜課の刑事たちや犯人となる改造犯罪者の心の機微、
警察組織内における個人の軋轢などに焦点を絞ったドラマ性に、
スポンサーである玩具メーカーは難色を示し、資金集めに難航。
地方の新興玩具メーカー(前年までコマやコケシといった民芸品を製造)がつくことで
一応の企画進行となるものの、放映までの準備時間があまりにも少なく、
制作現場は非常にタイトなスケジューリングを余儀なくされたという。
子供番組に一石を投じるはずの「電光刑事バン」であったが、
視聴率的には初回より大きな苦戦を強いられることになった。
派手な見た目に似つかわしくないトーンのドラマに対し、
「バンが活躍しない」「ずっと張り込みで終わった」
「スッキリとした終わり方じゃない」
「元気な主題歌と内容が一致しない」といった投書が多数寄せられ、
とくに番組のムードメーカーであったバンの先輩刑事(通称おやっさん)が、
警察汚職に関与し、宇宙犯罪ギルドと通じていたと判明する第4話は、
ラストにバンがおやっさんを直接手にかけてしまうという衝撃の展開ゆえ、
多くの子供たちの胸をえぐり、心に爪痕を残すことになるのであった。
これを機会に、制作陣によって大胆な路線変更が検討され、
第14話以降からはバンの活躍シーン(ただしバンク)を用意し、
シンプルで明るい冒険活劇へとシフトチェンジしていく。
14話に登場し、17話から準レギュラーとなる、おしゃまな少女探偵ツミレちゃん。
16話からバンの活躍を支援するどころか食ってしまう勢いの現場警視総監グレートマン。
同じく16話からの登場となるナゾナゾおじさん等、
年少者への目配せを強く意識したアイデアが多数盛り込まれることとなる。
結果、視聴率的には上昇傾向を示すものの、
番組スポンサーの倒産や、
出演声優(ナゾナゾおじさん役)の逮捕といったスキャンダルが重なり、
2クール満了を待たず、全22話+総集編にて番組は終了するのであった。
その後、「知る人ぞ知る」という製作サイドにとっては不名誉な冠と共に、
サブカル誌でオシャレな笑いの対象として語られるという辛酸を数十年味わうことになるのだが、
動画投稿サイトにアップされたMAD動画から端を発し、
「知る人ぞ知る」のままではあるが、13話までの路線は近年、再評価の気運が高まっている。
実際、子供の頃に「電光刑事バン」に傾倒し、こじらせた結果、
(警察官や刑事ではなく)プロの漫画家や商業作家になった者も多く、
そんな彼らは一様に、どんな苦境にあってもくじけないバンの姿に胸を躍らせ、
「アニメを真に受けて何が悪い」と信頼のおける発言を続けている。
板場も最初は、
時代遅れの劇画タッチの絵柄に「ホンキすぎて、なんかコワくない?」から始まり、
「顔面の眉毛の占有面積、広すぎ」「モミアゲが前にこう、ドーンと飛び出している」と、
笑いの対象であったが、それでも見続けているうち、
「14話以降のヘチョイ路線なんて、あたし認めない!」と言わしめるほどにハマってしまうのであった。
補足であるが、
寺島が着用しているコスチュームのキャラクター名は「ノワール」。
宇宙犯罪ギルドに属しながらも、たびたびバンを手助けする謎めいた役回りである。
いたずらっぽく蟲惑的な言動が特徴で、
10話以降、バンと男女の関係を想起させる台詞に「目覚め」た男子中学生も多かったという。
それだけに12話での退場シーンは、一部ファンによる抗議文が放送局に送られてきたほどである。
安藤が着用しているコスチュームのキャラクター名は「置き引きカマキリ」。
8話に登場する改造犯罪者であるが、
絶えず置き引きを繰り返すことを目的に生み出されているものの、
置き引きすらままならない両手の鎌に苦悩し、
「怪人とは何か?」と悪役のアイデンティティーを問う傑作エピソードとして
一部のマニアには知られている。
もちろん、板場はそんな8話が大好きであり、置き引きカマキリが大好きである。