水面下でその存在が囁かれていた、
日本政府の保有する「対ノイズ兵器」は、
地球の衛星である月の損壊という、
これ以上無いほどの大きな花火のもと、世界中に晒されることとなった。
数年前より、
フィーネからの接近で「聖遺物の起動」という、
化石燃料や核をも越える「新エネルギーの可能性」に触れていた米国政府は、
アドバンテージを持つフィーネに振り回される形となりながらも、
失墜した国威回復を大義名分とし、非合法な暗躍を展開。
二課本部へのハッキングや、
使用銃器から正体を悟られぬよう姑息な手を使いつつ、
広木防衛相をフィーネからの依頼にて暗殺するなど行ってきた。
――が、シンフォギアの存在が露見すると、
当初こそ日本政府の対応を舌鋒鋭く非難し、国際世論を一気に煽ったものの、
その後、日米安全保障条約の中に盛り込まれている、
「相互協力」を名のもとに一転し、協調の提案を強く打ち出してくる。
「対ノイズ兵器」であるものの、落下する月の欠片の破砕等、
運用によっては絶大な破壊力を発揮するシンフォギアの扱いを巡り、
特定アジア諸国からの非難をかわすことは困難を極め、
また国内の野党連合や市民団体を中心に高まる「憲法違反」の大合唱をかわすため、
日本政府は、米国からの提案を受け入れ、
国際的平和活用を大々的にアピールするように舵を取り始める。
その背景には、
広木威椎(ひろきたけつぐ)に成り代わって副大臣よりスライド就任した、
現防衛相 石田爾宗(いしだよしむね)の功績が大きいとされている。
現職の防衛相による、
首相や外務省を飛び越えての外交活動に対して眉をひそめる向きもあったが、
元々石田が米国との協調融和を唱える親米派議員であったことと、
こと、今回の出来事に軍事的な色合いが濃いことから、
有耶無耶にされたまま、進まざるをえなかったというのが真相である。
日本政府によるシンフォギア保有という事実が、
世界情勢に与えた影響は巨大なものであった。
だがそれは、ノイズへの対抗手段という単純なものではなく、
「聖遺物の起動」という新エネルギーに対する期待と、様々な思惑である。
資源輸出大国であるロシアと中国が、
露中共同声明として、
「日本が技術独占し、さらに聖遺物から得られる利益までも独占することなど、
決してあってはならない」と厚顔なコメントを発するなど、
緊張は、別方面へと波紋を広げつつあった。
――ノイズの脅威は尽きることなく、
人の闘争も終わることなく続いている……
それが世界の現状である。